タイムラプスインキュベーター
インキュベーターとは
インキュベーターとは、患者様の胚を育てている培養庫のことです。
体内と同じような環境(37.0℃、CO₂濃度6.0%、O₂濃度5.0%)に常に一定に保たれています。
胚を観察する際には、インキュベーターから胚を取り出し顕微鏡で観察する必要があり、光曝露、ガス濃度の変化、pH変化により、少なからず胚へダメージが生じてしまいます。
タイムラプスインキュベーターとは
タイムラプスインキュベーターとは、内蔵カメラと顕微鏡を備えたインキュベーターのことです。
当院では、ほぼすべての患者様の胚をタイムラプスインキュベーターで培養しています。
培養庫の中(体内と同じような環境下)で10分おきに写真を撮り続け、動画のようにモニターで観察できるのが特徴です。また、写真を撮る光は、高エネルギーの光による胚への悪影響を避けるため、比較的エネルギーの低く波長の長い赤色光を光源としています。
このことにより、通常のインキュベーターと比較して胚へダメージを与えることなく患者様の胚発生を見守ることができます。
このタイムラプスインキュベーターで約5日間培養し、胚盤胞に成長した胚を移植または凍結保存します。
タイムラプスインキュベーターで観察できる胚の様子(動画)
胚の育ち方については培養部のブログで詳しく説明しています。
見逃していたものが観察可能に
従来のインキュベーターによる胚培養では、頻繁に観察することが難しく、多核細胞(核が3個以上)の70%以上を見落とすことが報告されていました。タイムラプスインキュベーターにより動画のように観察することで、多核細胞や遅延受精を見落とすことなく観察できるようになりました。
また、20%以上の胚は異常な分割パターンを経ていることが分かっています。異常分割は着床率が低いのですが、タイムラプスインキュベーターではこのような異常分割もしっかり把握できます。
異常分割の様子(動画)
KIDScoreTM Day5 model, version3
KIDScoreTMDay5 model, version3 (通称KIDScore)とは、患者様の胚をタイムラプスインキュベーターで自動的に行うスコア付けです。
様々なクリニックでの大規模臨床データに基づいて開発されており、胚移植後の胎児心拍予測のため、タイムラプスインキュベーターによる胚の成長スピードや形態学的評価を総合評価し、各胚に1から9.9までのスコアが割り当てられます。
上図は「KIDScoreによる年齢別妊娠率」です。当院で顕微授精を施行し、タイムラプスインキュベーターで胚を5日間培養した後凍結し、1個移植を行った患者様の妊娠率を示したものです。
緑がスコア1.0~4.9の胚、青がスコア5.0~6.9の胚、黄がスコア7.0~9.9の胚で、患者様(奥様)の年齢別(34歳以下、35~39歳、40~42歳、43歳以上)に分けています。
スコアが高いほど妊娠率が高いのがわかります。